独断と偏見に満ちた版権特効の話・難易度編

2020年は結構版権特効を担当していたので、その反省と悲しみと備忘録を兼ねた記事をいくらか書いていこうかなと思い立ち、久々にキーボードで文字をたくさん打っています。今入力に使っているLogicoolのMX KEYSというキーボードがまぁクソで、それについての文句も書きたいところですが、どうでもいいですね。

 

2020年、版権特効でメインにやっていたのは『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(以下ニジガクと表記)というアニメ作品です。

これのブルーレイパッケージと

Blu-ray情報 | ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

各話数に挿入される各メンバーのシングル曲パッケージ

CD | 音楽商品 | ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

を主に担当しました。

 

その中で得られた知見と悲しみと怒りを主に記事にしようと思っているのですが、他の人が書いてそうな内容をね、僕が書いても仕方がないのでちょっと変則的に行こうかと思います。次の図をご覧ください。

 

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特効マトリクス

 

これは横軸に難易度、縦軸に工数を割り当て、そこに今まで行った特効案件を貼り付けたものです。

工数→多ければ多いほど作業時間がかかる

・難易度→高ければ高いほど絵を成立させるのが難しくなる

という感じで雑においてみました。

 

ではここからわかることをピックアップしていきましょう。

 

■美術とセルが剥離しているほど難易度が上がる

ニジガクというアニメは元々ソシャゲから派生しているメディアミックス作品です(このあたり説明が適当なので各々調べて下さい。よって、基本は止め絵主体からスタートしました。

アニメは作画で動かさないといけないので、複雑な衣装は基本NGです。さらにキャラクターデザインの横田さんは他の方と比較してこってりとした影付けをあまりなさらないタイプです。(他のラブライブ作品と比較してもらうとわかるのですが、非常にあっさりとした画面の作品です)

さらにお台場周辺をベースとした物語なので、現実の背景がたくさん出てきます。

これらの要素が組み合わさるとどうなるか、『緻密な背景の上に、あっさりとしたセルが乗っかる』ことになります。単純に言うと、何も処理しなければ『聖地に置いてあるアニメの等身体パネル』みたいになります。

 

もう一度図を見てください。一番左下にあるのはキャラの立ち絵です。これはそもそも背景美術が無いです。よって難易度は最低、非常に成立させやすいということになります。

 

逆に難易度が高い側を見ると、現実的かつ緻密に描かれた空間にキャラが存在しているものが多くなります。

 

なるべくイメージ背景や立ち絵などの案件を取るようにしましょう。

 

■ライティングが複雑なほど難易度が上がる

日中、あるいは光源が少ない、光源の位置が真正面にあるほど馴染ませるのは容易です。というよりか、特に工夫しなくてもそのまま成立する。

逆に夜間、複数光源、逆光、フットライト(足元から当たる光)etc....になるほど難しくなります。

上の図で言うと、左に来ているものは光源がほぼほぼ真正面から当たっている(あるいは光源の概念がなくフラットな画面)かと思います。右に行くと、逆光だったりフットライトだったりで、光源が変則的になっているのが見て取れます。

 

なるべく昼間かつ順光の案件を取るようにしましょう。

 

■アングルが複雑になるほど難易度が上がる

これは単純に言うと『俯瞰』です。斜め上から見下ろしているタイプ。

なぜ難しいかというと、足と地面が近い(あるいは接地している部分が見えているものもある)為に、背景を一括してぼかして処理というのがやりづらくなるからです。いちいちボケ量をカメラとの位置関係を想像しながら調整しなければいけません、これは難しい。さらに、身体の中でも、カメラに向かって伸ばした手と、つま先でかなりの距離が発生します。背景にボケ処理を入れると、「なぜ身体のパーツはボケてないんだろう」という違和感につながりやすいのです。面倒ですね。

もう一点、キャラクターから落ちる影の存在もあります。大抵美術には、建物やオブジェクトに影が存在しています。キャラクターの影は原則そこには無くて、セルで描かれた影を合成モード(乗算とかオーバーレイとか)で馴染ませていくことになります。厳密に言うと、これでは色や濃度が美術の影とは合わないのです。面倒ですね。

 

なるべくシンプルなアングル、なるべくならバストアップの案件を取るようにしましょう。

 

■難易度というのは存在するのだろうか?

さて、以上の様に特効における難易度というものを説明してきましたが、実際のところ、これらの要素は『納品において何一つ必要性はない』というのがキモです。全く考慮せずに、どんな内容のモノでも一括の処理でまぁ大丈夫、受領されます。

つまり難易度とは作業者が勝手に想像している概念に過ぎず、あくまで職人的意識によって付与されるものでしかないのです。

そして、それらの物事を考慮したからといって、じゃあ最終アウトプットが良くなるか?というとよくわかりません。現実的にはお節介、マイナス要素になっている可能性も否めず、素の作画素材をはっきりくっきり載せたほうが喜ばれるのではないか?という気持ちもあります。ここらへん、深く考えてはいけません。そういうことを考えだすタイプの人は、そもそも特効には向いてないのです。やめておいた方が生きていく上では楽だと思います。

 

 

…悲しい内容を書いてしまった。ここからは、現実的な部分である『工数』に関わる内容をサラッと書いていきます。こっちはどの作業者でもおそらくにたりよったりではないかと思います。工数がかかる内容であるほど作業時間が嵩むので、まぁやめておいた方がいいのではないかと思います。

 

 

■画面内の人数が多いほど工数がかかる

これはもう当たり前で、人数分の処理がかかるからです。左上に、全員集合のCDジャケットを置いているのですが、難易度としては低いのに、9人も画面に存在しているので無限とも思える作業量が発生します。つらいです。

 

なるべく人数が少ない案件を取るようにしましょう。

 

■画面が大きく精細であるほど工数がかかる

図を見てもらうと、正方形なものとそうでないものがあるかと思います。正方形のヤツはCDジャケット、縦長長方形のヤツはBDジャケットです。処理内容はほぼ同じなのですが、画面のピクセルサイズが縦横それぞれ2倍以上BDの方が大きくなります。まぁ物理的にデカいからね。

その分細かい粗もたくさん見えるし、単純に処理する面積が増えるので大変です。

 

面積が小さい案件をおすすめします。

(ただし、ピクセル数が多いほど表現できることも増えるので、やってて楽しい、という意味合いにおいてはBDジャケットの方が上だったかもしれない)

 

■特殊な処理が必要なものほど工数がかかる

これは何をもって特殊か?というところにかかってくるのですが、レザーや金メッキ系の装飾、あるいは発光する物体を身にまとっているキャラなどが該当します。まぁこだわりを捨てればこれも実際には工数としてさほど加算されないのかな?わかりません。質感にこだわるほど尋常じゃなく作業量が増えます。

 

なるべく特殊処理がない案件を取るようにしましょう。

 

 

工数がかかるのはだいたい見た通りかと思います。要は複雑で情報量が多いほどそれに比例して作業時間が膨れ上がるということですね。

これはまぁ案件をみた瞬間回避余裕でしたという感じかと思いますので、頑張って避けてください。

 

 

 

 

以上、版権特効と難易度にまつわる話でした。今後は個別にどのような処理を実際に加えていったかという記事を書くつもりですが、やる気が無くなったら書かないと思います。そんなもんです。

 

 

非常に重要なことを書き忘れました。

どれだけ工数が掛かろうが、難易度が高かろうが、賃金は一律です。

 

以上です。